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深まる

 山桜の落葉が進み、メグスリノキが真紅に近づいてきた。

 この樹が紅に変わると、冬が始まる。

 

 季節の変化を虚ろに感じつつ、目の前に垂れ下がったあれこれに日々が費やされる。

 心配事で悩む。なんてものは、無駄な心労に過ぎない。何故なら、考えて解決できないから悩むのであって、解決できない事をぐちゃぐちゃとこねくり回しても、事態は何も変わらず、悩む行為によって更にドツボにハマってゆく。なのに人は悩む。そして、どんどん本質が見えなくなる。

 まぁ、理屈では判っていてもね。ハマるんだわ。これが、世に言う「ストレス」の根源ね。

 

 母を高齢者施設に入居させた。探し始めてから、トントン拍子に話が進み、希望の施設に希望の時期に入居できた。ちなみに、地域の包括支援センターは使っていない。父の時もそうだが、私は、自力だけで見つけている。人頼みにはしない主義である。責任は、すべて自分にあると考えている。

 母本人は、施設へ行く事を素直に受け入れ、次の人生を楽しむ準備を整えていた。適応力に長けている点は、最大の財産だと思う。あっけらかんと馴染んでゆく姿は、生命力の強さを物語る。反面、それでいいんかい。と多少ツッコミも入れたくなる。

 介護付きの施設ではないので、何かと用事ができるたびに、私は50キロの移動をする。ほぼ毎週のように、私の休みは母のお世話になってしまう。目下のストレスがこれである。私が動かなければどうにもならない事なのだが、母には、その都度感謝されるのだが、感謝されるが故に、気持ちの持って行き場がなくなる。悪態をつかれた方が、堂々とくそばばぁと言えるのに。などと、贅沢な悩みを持ってしまう。

 母の居る施設は、自力歩行が出来るのが最低条件なので、皆さんそれなりに元気である。居室はワンルームマンションのような作りであるが、風呂だけは温泉大浴場になる。廊下も空調が整っているので、ヒートショックを起こす事もないだろう。大浴場は、源泉掛け流しの温泉である。入浴時間は決められているが、混雑しないように、程よく分散して入っているらしい。基本、元気な人たちなので、寝巻き姿でうろついている人はいない。風呂からの帰りでも、パジャマ姿は皆無だそうだ。母は、私と違っておしゃれが好きである。化粧もちゃんとする。薄くなった髪を補うウィッグまで持っている。どうやら、自宅にいた時よりおしゃれに気を使うようである。女って、大変なのだな。

 だが、これで、もうしばらく元気でいてくれるだろう。

 深まる秋に思う。

 自分だけの休みがほしーーーーい。まぁ、臨時休業すればいいんだけどね。