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幻想

碧い月を始める時、思い描いた理想のスタイルがあった。

それは、あまり現実的では無かった。

十分に下準備をしたつもりだったが、商売はそれほど甘くはない。

夏の始まりに開店したが、冬前には運転資金が底をついていた。

生命保険を解約したが、あっという間に消え去った。

夜の街で働くことも考えたが、それほど社交的ではない。

冬の間の定休日と夜間、単発のバイトをして何とか凌いだ。

その生活は、理想とかけ離れていた。

それでも、辛くはなかった。

自分で選んだ道だからだ。

立ちはだかる困難も、エネルギーに変えていた。

がむしゃらだったのだ。

そりゃ、今より20歳若いのだから。

つまずいてる場合じゃない。

悪くなる一方の情勢でも、明るい未来を想像していた。

根っこは、楽天家かもしれない。

1999年6月にオープンした「碧い月」は、翌年の晩秋に一旦休眠となった。

それでも挫けなかった。

たった一年半の営業だったが、実りのある日々だった。

そして、それは閉店ではなく、必ず復活させるという希望の休眠だった。

根拠の全くない目標だが。

 

今年、開店から20周年になった。

三春に移ってからは、15年を越えた。

誰よりも長い時間を「碧い月」と共にしている。

それでもまだ、理想には至っていない。

簡単に手にしてしまったら、先が見えなくなるからだ。

だから、目標は、幻想であったほうがいい。

その方が、未来は続く。