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北岳

 日本で2番目に高い山、標高3,193m。

 片道6時間。標高差1600m。山小屋泊。

 海の日連休。おそらく激混み。しかも、梅雨まだ明けず。

 登山口の甲府まで車で4時間オーバー。

 

 アルプス方面には何度か行ったことがあるが、初心者向けの登山コースのみだった。立山以外は、天気には恵まれていない。本州のほぼ真ん中にドーンとそびえる山々に、ものすごく魅力を感じているわけでもなく、北岳行きの話が出た時、ふーんと思っただけで、行こうとは思わなかった。何しろ、三連休の稼ぎ時を臨時休業する気もなく、また、知らない人と一緒の登山など、考えてもみなかった。

 日本で一番とか、二番とか、深田久弥の百名山とか、全く興味もなく。どれほど魅力的な山かは知らないけど、激混みの時期に行く人の気が知れなかった。

 なのに。

 出発1週間前に、ふと、今回誘いに乗らなかったら、絶対行くことはないな。と急に、勿体無く感じ始めた。いや、そもそも興味がないのだから、行かなくていいようなもんだけど。何となく、ビンボー根性なのか、いやいや、行ったら、費用がかかるし、店休むんだから、財布の中身は減るだけなのだから、物質的ビンボー問題ではなく、「行っといたほうが絶対いい!!」的な自己達成感への満足根性が優位に立ってきた。

 そうなると、どんな山なのか、ネットで調べ出し、自分でも登れそうな気になってきた。

 つまり、私は、自信がなかったのだ。先に述べた様々な要素が自分の体力と気力を超えていると思っていた。梅雨空続きで、今シーズンは、まだあまり登っていないから、体も出来ていない。パーティなので、足手まといになって、迷惑をかけるのは本望ではない。一番のネックは、山小屋泊だった。汗だくの老若男女がごっちゃごちゃで、むせ返るような狭い空間に詰め込まれるのに耐えられる自信がなかった。山小屋で眠れなければ、体力回復出来ず下山で滑落するかも知れない。とまぁ、ずらずらと負の要素を挙げ連ね、出来ないと決め込んでいた。

 食わず嫌いも手伝っていた。

 なのに。

 私も行きます。

 手を上げてしまった。

 そうなると、俄然やる気が出てきた。腹が決まったのだ。

 当初の予定より簡単なコースに変更になったのも幸いだった。簡単といっても、片道6時間には変わりはない。標高差も変わらない。間ノ岳という三番目に高い山までの縦走をなくし、北岳単独になったのだ。

 結論から言うと、無事登頂し、無事下山した。

 お天気に恵まれたとは言えないが、頂上では、雲が晴れたし、富士山もシルエットで見えた。雨にも降られたが、霧雨のちょっと強目くらいで、思いの外しんどくはなかった。

 あれほどまでに敬遠していた山小屋は、確かにぎゅうーギュー詰めではあったけど、自分でも驚くほどぐっすり眠り、汗臭くもなかった。

 た・の・し・い!!

 

 

 下山途中の山小屋でお湯を沸かし、持参した碧い月珈琲を皆に振る舞った。

 これで、名目は、出張になる。

 と、臨時休業の言い訳を正当化した。

 何事もなく無事終了と言いたいところだが、メンバーの一人の靴が、山小屋で履き違えられてしまい、山小屋の靴を借りての下山となり、血豆と靴擦れで相当足が痛かったと、翌日になって聞いた。なのに、コースタイムで下山出来たのがすごい。

 貸してくれた山小屋の主人に感謝だが、その靴、返しに行かなきゃならないのだよねー。

 って事は、もう一度あの山に登るってことね。

 

 もう一度、ついていこうかなぁ。