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休業184日目

猫魔ヶ岳

 猫魔ヶ岳より磐梯山を望む。

 紅葉までは、もう少し。だが、八方台の駐車場は、満車状態。そのわずかな隙間にスルリと駐車した。

 ほとんどの人が磐梯山へ登っている。

 私の目的地は、その反対側の猫魔ヶ岳の先にある猫石である。

 毎年の恒例行事。季節は決まっていないが、欠かすことはない。

 すっきりとした秋晴れ、もう、今日しかない。と思って三春を出発した。

 猫魔ヶ岳は、磐梯山より400mも低いが、頂上からの眺望は、全然負けていない。難しい箇所もなく、初心者でも難なく登れる山である。何より、八方台からのアプローチだと、わずか1時間ほどで頂上に着くのだ。

 風もなく穏やかな日である。

 いつもよりずっと速く、でも無理のないペースで、どれくらいで登れるかチャレンジしてみた。

 緩い登りが心地いい。

 尾根に出ると、猪苗代の町が一望できる。若松の街並みも、那須連邦も、奥会津の山々もぐるっと見えちゃう。

 なんかもう、真面目に働いてる世間の皆さまゴメンなさい。遊んでる私バンザイ。って感じ満載に、ひとりニマニマ。

 途中作業服のお兄さんがいたので、何の調査か聞いてみた。なんと、食べられないキノコの調査だという。世の中には、いろんな仕事があるもんだ。

 少しの汗と弾んだ息づかい。

 瞬く間に頂上に着いてしまった。

 コースタイムの半分だった。自分でもビックリしたが、短い距離だからこのタイムで来れただけである。

 猫魔ヶ岳から、一旦下り、また登り返して猫石に到着。 

 雄国沼でうっすらと草紅葉が始まっている。そのずっと奥に見えるは、夏に制覇した飯豊山である。

 ひゃっほー

 貸切の猫石で歓声を上げた。

 ここは、大好きな場所である。そして、大切な友人が眠る場所でもある。この場所でどうこうしたわけではないのだが、その魂の一部は、ここを拠点にしていると確信している。

 ん?一部って?魂って、分割できるんかな。

 などと、アホなこと考えつつ、友人の大好きだったコーヒーを差し出した。

 って、あたしが飲むんだけどね。

 気持ちいい。本当に気持ちいい日だ。

 ゆっくりとランチを堪能して下山。

 もう一つの思い出の地、レンゲ沼まで足を伸ばした。

 泣きたくなるくらい、美しい。

 休業して半年。劇的に生活が変わった訳ではない。メニューを考えないのは、正直楽であるし、時間を気にせず出掛けられるのもありがたい。

 常に店の事を考えながら生活してきた20年だった。それで生きているのだから、当たり前だと思っていた。だから、定休日以外で店を休むのは罪悪感でいっぱいだった。サボっていると思われるのもシャクだったし、余裕があると思われるのも不本意だった。  

 カフェに憧れる人も多いだろうが、こんな儲からない商売はない。毎年の確定申告で、よくもまぁこれで継続できているなぁ。という現実を数字で見る。それは、私の七不思議でもある。それでも20年やって来れたのは、歩みを止めなかったことに他ならない。

 最初の裏磐梯の店を閉めた後は、再開するまで1年半のブランクがあったが、その間は、別な仕事をしながら通信で店を繋いでいた。まだまだ、アナログな時代だったので、紙で通信誌を作って(勿論自作)通販をして継続していた。HPも今よりもっと具体性があった。いずれも手作り感満載だったが、それが良かったのだと思う。

 試行錯誤の繰り返しで、前に進むことしか考えていなかった。

 今ほどカフェが多くはなかったのも幸いしていたのだろう。

 気が付けば20年経っていた。そして、このご時世がやって来た。

 潔く休業を選んだのは、これまでの自分に対するご褒美でもある。

 一人でやっている事と、借金がない事で、持続化給付金でなんとかまわせると目論んだ。家賃と必要経費が確保されれば、維持できるさ。

 先行きの不安は勿論あるが、今しばらくは、このままを続けようと思う。

 私の長い休暇である。