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さもない日暮れ

 ふと見上げれば、上弦の月。

 落ちた太陽に棚引くような雲。

 思わず、携帯のカメラを起動させた。

 この美しいコントラストは、日没後のわずかな時間だけ。

 

 ほんの少し、店のレイアウトを変えた。

 気持ちを切り替えるきっかけにするため、私は決まって模様替えをする。

 溜まった埃を掃除しながら、スッキリとさせるのだ。

 身の回りが整頓されると、気持ちも新たになる。

 必要なものと適切な場所を吟味して、無駄がないかを考える。

 ごちゃごちゃとしていた頭の中を同時に整理しているのだ。

 一度置き場を決めたら、まず移動させることのなかった父とは大違いである。

 父が晩年を過ごした家は、私が生まれた家ではない。しかし、ほぼ同じ間取りだったので、家具類は同じ場所に置かれていた。そうすれば家は違っても、勝手は変わらず、違和感なく過ごせたのだろう。

 違うことに馴染めない性格だったのだ。

 父は、生まれた土地をほとんど出る事はなかった。他所の家に泊まる事さえほとんどなかった。家族旅行など皆無であった。

 新しいことに興味がなかったのか、必要としなかったのか。

 私とはえらい違いである。

 正直私は、郷土愛があまり強くない。生まれ育った土地を愛おしいとは、全く思っていない。

 地元へ行くのは、墓所があるからだけである。

 我が家の墓には、父と兄が入ってるが、私の亡き後は墓を守る者はいない。故郷を離れたことのない父を想うと、少し気は引けるのだが、いずれ墓仕舞いをしてどこかの共同墓地に移そうと考えている。

 私は、後継者を持たないので、思考が健全なうちにあらゆる物事を整頓しておかなければならない。

 と、この頃しみじみ考えている。