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お月見

 

 携帯でも、写るもんです。

 お月さんの下に光る青い物体は、未確認飛行物体ではございません。

 光を直接撮ると、どうしてもレンズに反射してしまうんですよね。

 

 子供の頃、盆正月の他に特別な行事として十五夜があった。

 誕生日やクリスマスより、ひな祭りより重要な位置付けだった。

 月が見える縁側に小さな座卓をおいて、花瓶にススキ、お皿にまん丸お団子、梨やブドウの丸い果物をお供えした。

 なぜか、手を合わせて拝んだ気がする。

 お月見は、宗教的意味合いはないはずだが、我が家では、お月さまに手を合わせると、お団子を食べることが許された。

 お雛様もクリスマスツリーも飾ってもらえなかったのに、何で、お月見壇だけは、ちゃんと飾られたのだろう。

 不思議な習慣だった。

 

 夏の終わり、母がちょっと体調を崩した。

 お盆の頃、部屋のトイレを詰まらせてしまい、数日間使えなくなった。

 修理業者はお盆休み中で、どうしようもなかった。

 共同で使えるトイレは、階下にしかなく、そこまで行くのも大変だったようだ。

 母の不注意でトイレブラシを流してしまった結果なのだが、それにも気を病んでいた。

 お盆明けには、あっさりと解決したが、母なりにダメージを受けたようだった。

 メンタルが弱ると体調も崩す。

 帯状疱疹、ぎっくり腰と立て続けに弱ってしまった。

 どちらも軽い症状だったので、施設で病院へ送迎してくれた。

 投薬だけで良くなったのが幸いだった。

 しかし

 こうやって、どんどん、どんどん、どんどん。

 弱っていくんだなぁ。

 ま、食欲はあるから、あまり心配はしていないけど。

 本人は、ごはん食えなくて、辛い・・・と。

 いや、送ったパンやら果物やらお菓子やら。

 全部食べてんじゃんか。

 食欲ない!?

 それ、間食しすぎて、ごはん残してるだけやー。

 と、母親のようなツッコミを入れたくなる、心配しない冷ややかな娘でした。

 

 少しでも、母のことを優しくしてあげたいと思うのだが。

 とても難しい。

 それならば、子供の頃の楽しかった思いを蘇らせようと。

 懸命に記憶を紐解くのだが。

 ・・・・

 厳しくされた訳でもない。

 甘やかされた訳でもない。

 勉強しなさいと言われたことはないが。

 夕飯の準備をしないと、こっぴどく怒られた。

 欲しいものはお年玉を貯めて買ったし。

 上京するのも、バイトして資金を捻出した。

 母から受けた愛情をどうやって探せばいいのだろう。

 楽しかった思い出が見つからないのだ。

 捻くれているとの自覚はある。

 だが、しかし。

 与えられなかったものは、与えることができない。

 そのジレンマに苦しむ娘を、きっと、理解できないだろうな。

 ま、私の想いも堂々巡りね。

 

 思い立って、鎌倉岳に登った。

 臨時営業の時来店してくださったお客様が、鎌倉岳の帰りだと聞いたから、なんか急に登りたくなった。

 感染拡大やワクチン接種があって、山は、ほとんど登っていない。体が、登山仕様から遠ざかっている。

 鎌倉岳は、約一時間ほどで登れる山だが、岩場もあるし、水が出てる場所もあり、けっこう急騰が続く。そして、夏場は暑いし、虫も多いので、この季節登ることは、ほとんどなかった。

 秋風が心地よくなってきたし。

 よっしゃ、登ってみっぺ。

 登りはじめは、薄暗い杉林を行くのだが。

 なんと。

 ごっそりと伐採されて、景色が一変していた。

 ま、そんな事もあるさ。

 と、ゆっくり登り始めた。

 が、すぐに息が上がる。

 運動不足ここにあり。

 少し登っては、息を整え。

 また登っては、水分補給。

 半分ほど登って、ちょっとやばいかもと。

 少し長めに休憩しても。

 うーん、キツい。

 どうしよう、登れないかも。

 この山でこんなにキツいの初めてだ。

 潔く、下山しようか。

 ぐるぐる頭で考えて、休憩を繰り返す。

 行動食を食べたら、少し元気になった。

 あれ。

 シャリバテ!?

 単純な体だった。

 そこから、一気に元気になり、いつも通り登ることができた。

 頂上独り占めです。

 

 予想より暑かったこと。

 朝食が少なかったこと。

 久しぶりでペースが掴めなかったこと。

 山登りは、わずかな変化でへばってしまう。

 過信は禁物ね。