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ステント

 入院してから1週間後、やっと先が見えてきた。

 詰まりかけている大腸を広げるため、金属のバネみたいなものを挿入させるというのだ。上手くはいれば、腸内が広がりある程度の広さが確保でき、腸閉塞の心配が減る。というわけである。

 その措置は、大腸内視鏡で行われる。

 1週間絶食した私の腸内は、緊急に詰まる心配もないのだが、その措置を施せば食事が取れるようになる。手術は、すぐには行われないので、それまで腸閉塞を起こさないようにするためでもある。

 ま、自分で調べたんだけどね。

 何しろ、主治医は、言葉が少ない。少なすぎる。

 回診の時「ステント」と独り言のように呟いただけなのだ。

 後に看護師に説明を受けたが、どうも頼りない。

 で、ネットで検索した結果である。

 病院内は、Wi-Fiがないのが厳しいが、仕方ない。

 三春病院で内視鏡検査をした時は、腸閉塞の恐れがあるため、腸内洗浄の2リットルは飲まなくてよかったのだが、今回は、ちゃんと飲むことになった。

 11月22日(月)朝7時半から、洗浄薬を飲み始めた。

 コップ1杯の薬をゆっくり飲む。

 あ、味がある〜。

 リンゴジュースのような、ポカリの濃い味のような、悪くない味である。

 何しろ、1週間何も食べていないので、こんな薬でも味があることが嬉しい。

 私が嬉しそうに飲んでいる姿を見た看護師は、呆れて笑っていた。

 しかし、美味しかったのは、最初の1杯だけである。

 15分かけてコップ一杯を2回。その後、水をコップ1杯15分かけて飲む。

 これを5セット繰り返すのだ。

 その間、ミルク飲み人形の如く、便意がやって来る。

 トイレと病室を行ったり来たり、薬を飲まなきゃならんし、水も飲まなきゃならん。

 いっそがし〜

 4セット目ぐらいから、看護師に便の状態をチェックしてもらうために、トイレの中からナースコールを押す。

 まだですね〜

 看護師のOKが出るまで、その繰り返し。

 私は、順調に飲み進め、順調に排便し、順調に腸が洗浄されていった。

 何しろ、このステントが入れば、食事が出来るようになる。

 それが励みとなっていた。

 見事全てを飲み切った。

 チェックもオーケーが出た。

 しばらく待機していると、検査室からお呼びがかかった。

 検査着に着替え、点滴棒を引き連れて、いざ出陣。

 まだ、どこも痛くはないので、自分で歩いての移動。

 さぁ、どっからでもかかって来い〜

 という気持ち。

 三春病院での内視鏡検査は、気を失いそうなくらい痛かった。今日はその恐怖はない。

 何しろ、ここでの検査は、眠っているうちに終わる。

 検査台に横になるや否や、すっーと意識が遠のいた。

 帰りは、ストレッチャーで運ばれる。気が付けば、自分のベットである。

 遠い意識の中で、痛い痛いと叫んだ気がした。

 が、ともかく、終わって病室に戻った。

 ぼんやりしていたが、嬉しくて、嬉しくて、はしゃいでいた。

 でも、眠い。すごく眠い。

 睡眠剤の影響が抜けぬまま、その日は、ぐっすり眠ってしまった。

 翌日。

 衝撃的事実判明。

 ステントが入らなかったのだ。

 私の腸には、器具を挿入できるだけの隙間さえなかったのだ。

 便はちゃんとでているのに・・・。

 なんで!?

 食事開始の希望は、もろもろと崩れた。

 落胆した。

 食事もそうだが、それほどまでに病巣がデカイのに驚いた。

 しかし、医者は諦めない。

 そりゃそうだ。これが入らなきゃ、先へ進めない。

 翌日、再びチャレンジする事になった。今回は、洗浄薬は飲まなくていい。

 あの2リットルを飲まなくて良いのは、やはり有難い。

 24日(水)無事成功。

 後で聞いた話だが、入らなかった最初の処置では3時間ほどかかったが、今回の処置は、30分くらいで戻ってきたらしい。

 入る時は、すんなりと入るらしい。

 でも、まぁ、良かった。これで、少し先に進んだ。

 が、その夜から、別な苦しみが待っていた。