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外科へと

 呆気なく病院へ戻ってしまった。

 診察した主治医は、手術を早めましょうと言っただけで、触診さえしなかった。

 CTも血液も異常がないので、そんなもんなのかも知れないが、患者としては、もっと寄り添った診察をして欲しかった。

 が、しかし、痛み止めのおかげで、夕方には、ほぼ回復していた。

 再び絶食になったが、仕方ない。

 今度の病室は、以前と違っていた。同じ階だが反対側の病棟だった。

 星総合病院の病棟は、各階4つの病棟に分かれている。エレベーターを中心に放射状に分かれているのだが、うっかりすると自分の部屋がわからなくなる。

 数日前までいた場所に慣れているので、何度も間違いそうになった。

 病棟が変われば、看護師も変わる。そして、入院患者も当然変わる。

 それは大きな違いだった。

 新しい病棟は、静かなのだ。

 介護を必要とする入院患者がほとんどいない。

 よって、おむつ交換で忙しそうにしている看護師もいない。

 叫んでる患者も、怒っている看護師もいない。

 あまりの違いに驚いた。

 これなら、穏やかに過ごせそうだ。

 痛みは、その後襲って来なかった。代わりに、空腹でお腹がグーと鳴った。

 翌日のお昼から、食事が再開された。

 予想より早かったので、素直に嬉しかった。ご飯はお粥だが、おかずはバリエーションが出てきた。

 回診は、相変わらずシンプルな対応。点滴もしているが、栄養補強のため水で溶かして飲む栄養剤が加わった。

 これが、不味い。

 どうしたらこんなに飲みにくい栄養剤になるのかと思うくらい不味い。

 味変のフレーバーもあるのだが、さらに不味さを加速するのもある。

 まるで、罰ゲームジュースだ。

 主治医は、一日3本飲むよう指示し、段ボール箱でごっそり運ばれてきた。

 ただ、看護師は、食事を取る方が大事だから、無理しないようにと言ってくれた。

 これとは別に、自主練と称して、売店からクラッカーとビスケット、フルーツ飴を買ってきた。罰ゲームジュースを飲んだ後の口直し用である。

 このおかげで、体重の減少は落ち着いた。

 再入院から5日目、ようやく手術日が決まった。

 その知らせは、主治医からではなく、外科の執刀医からだった。

 いつもの回診は、主治医が休みだったので、さらにあっさりした対応だった。前日に手術のカンファレンスが行われていたはずだが、その件についてのコメントは一切なく、変わりないですか?と一言放っておしまい。

 消化器内科の医師は、最小限の言葉しか発してはいけないルールでもあるのか!!

 と、突っ込みたくなるほど、あっさりした回診なのだ。

 その1時間後、若手の医師がにゅーっと現れた。

 イケメンである。

 担当になる外科医だった。

 内科の主治医からの説明がないまま、外科に引き継がれたらしい。

 新しい担当医は、自己紹介をすると、手術日を提案してきた。

 次の月曜日に空きがあるので、最速で出来るというのだ。

 間髪入れず、お願いした。

 イケメン外科医は、お腹を見させてください。と言い、これまで主治医が一度もやった事のなかった、触診を当たり前のように行った。

 データから判断する医療が悪いとは言えないが、消化器内科の主治医は、私の体に一度も触れる事はなかった。

 コロナ禍もあり、外来もあるのでそうしていたのかも知れないが、患者としては不安は拭えなかった。

 ところが、このイケメン外科医により、その不安は一掃された。

 12月13日(月)手術が決定した。

 手術日までの数日間で、もう少し体力を回復させたい。

 食事と罰ゲームジュース、自主練のお菓子に加え、軽いストレッチも再開させた。

 翌日、点滴も終わり、体が自由になった。

 結局、消化器内科の主治医とは、特にやり取りもなく、私の主治医は、イケメン外科医に移行した。

 内科医と外科医、こうも違うのか!?

 ま、医者も色々だ。

 そもそも手術が前提の患者は、外科に移るので、内科医はそれまでの繋ぎのような位置付けなのかも知れない。

 そう考えると、納得だ。

 ともかく、今度の主治医がイケメンだけでなく、丁寧な診察なのが、何より安心させてくれた。

 後はもう、なるようにしかならない。

 手術に対する不安や恐怖は、ほとんどなかった。

 むしろ、どんな風に意識がなくなるのか、目覚めた時は、どんな感じなのかに興味津々だった。