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冬枯れの鎌倉岳

 葉を落とした林の中を、落ち葉を踏みしめながら歩くのが好きである。

 さくさくと触れる木の葉。

 コトリ、コトリと揺れる木々。

 冬支度を終えた静かな山が、好きである。

 雪が来るまでの僅かな時期の楽しみなのだ。

 

 11月の祝日に、常盤の鎌倉岳へ行く約束をした。

 山に登る人の気が知れない。

 数年前、そう笑っていた友人が、どうやら山の魅力にハマったらしい。

 人は、わからないものである。

 土日営業しているため、祝日しか一緒に行ける時はない。

 今年残された最後の休日を約束した。

 が、しかし。

 天気予報は、雨。

 岩場も多い鎌倉岳は、雨の日登るのはよろしくない。

 初めての一緒の山行が、雨では楽しくない。

 よって、中止。

 ま、また今度ね。

 と、来年まで延期にした。

 

 翌週。

 一人で行くことにした。

 何度も、何度も登っている山なので、一人でも問題ない。

 山に登る前は、いつもワクワクが止まらない。

 どんなに慣れた山でも、ドキドキが止まらない。

 嬉しい気持ちと不安な気持ちは、同じように心拍数を早める。

 登り始めて息が切れると、その心音は同化する。

 山の空気が体内を駆け巡る。

 とても健やかな気持ちになる。

 ゆっくりと登り始める。

 何しろ、猫魔ヶ岳以来だし、ランニングもサボっているし、庭仕事もやっていない。

 つまり、完璧なる運動不足なのだ。

 今月は、術後一年目の検診があり、内視鏡やらCTやらと病院通いだった。

 結果は、無事何事もなかった。

 ま、そう簡単に再発されたら、たまらんわ。

 と、そのお祝いも兼ねての山行である。

 思ったほどお天気は良くないが、風はなく、穏やかな日である。

 ゆっくり登っているつもりでも、一人だとやはり速くなってしまう。

 去年の秋にここへ来た時、途中で不思議な気分に襲われた。

 吸い込まれるような、意識が持っていかれるような、感覚だった。

 あの時は、お腹が空いているのだと思い、休憩をして行動食を食べた。

 それで治ったので、シャリバテだと思っていた。

 だが、30分登っただけでバテてたら、シャレにならない。

 と、思っていた。

 そりゃ、でかい病巣育ててたからね〜

 目眩起こすわ。

 と、今ならわかる。

 その場所も、無事通過。

 あの時のような感覚は全くない。

 健康を実感。

 無事登頂。

 

 梢の先には、次の春目覚める芽が眠っている。

 その希望が好きである。

 だから、葉を落とした木々に愛おしさが募るのだ。

 雲は多いが穏やかな冬の始まり。

 大きめに握ったおにぎりは、格別のご馳走であった。

 また、来よう。

 

 錆び付いていた体がちょっとギシギシだったのは、戒めとしよう。