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泳ぐ鯉

 今年も、青空に向かって泳ぐ鯉。

 三春の桜が散り始めると、小野方面の桜が満開になる。

 川沿いの千本桜もいいけれど、林の中にポツンと咲いてる桜もいいもんである。

 コロナ禍前は、たまたま通りかかった高速から見下ろしていた、夏井千本桜。

 実際行くようになってみると、やっぱり間近で見た方が雰囲気を味わえる。

 土手には水仙が咲き乱れ。

 鯉のぼりが悠々と泳いでいる。

 のどかである。

 今年は、平日でも県外ナンバーが多かったし、駐車場も次々車が入っていた。

 日常が戻ったんだなぁ。

 しみじみ思う。

 うちの店は、相変わらず、土日だけの営業だが、桜の開花時期は、満席になることも多かった。

 ネットでしか営業状況が分からないのに、来店してくれるお客さんに感謝しかない。

 それも、ほぼ落ち着いてきた。

 

 先日、初老のご夫婦が来店された。

 コーヒーとケーキを注文され、じっくり味わいながら歓談していた。

 そのお二人は、とても穏やかで柔らかい空気に満ちていた。

 素直に素敵なご夫婦だと思った。

 お水いただけますか。

 そう言われ、お出しすると。

 秩父の天然水ですね。

 ご主人が悪戯っぽく言われた。

 確かに秩父の天然水である。

 だが、今は、メニューにそのことは書いていない。

 あ、以前にも、似た様なやりとりがあったなぁ。 

 記憶の糸をぐるぐる手繰り寄せてみた。

 そうそう、あの時の方々だ。

 もう、5年以上前になる。

 いっちゃんがまだ、現役だった頃のお客様だ。

 聞けば、どうしてももう一度来たくて、近辺を1時間以上彷徨ったそうである。

 店の名前も覚えておらず、「あお」という響しか記憶していなかったらしい。

 もう諦めかけた頃、見つけ出したそうである。

 心が、じわーっと暖かくなった。

 店、辞めなくて良かった。

 誰かの心に生きているんだなぁ。

 今季は、そんな懐かしいお客さんが多かった。