· 

決して怒らず

 みるみるうちに青く熟してきた。

 植えて20年のブルーベリーは、今年も豊作だ。

 

 粒の大きいところを選んで、母へ持っていった。

 あら、こんなの初めてだ。

 いやいや、毎年持って来るし。

 ま、記憶の蓄積なんて期待してないから、いいけどね。

 

 ずっと悶々としていた母の介護。

 積年の恨み辛み!?

 母という理想像に対する絶望!?

 何を今更。

 頭では理解していても。

 何で!!!

 怒りが、私の思考を支配していた。

 それが。

 突如として、どうでも良くなった。

 諦めとも違う気がするが。

 どうにもならない事で悩んでも、やることは、やらにゃ〜ならん。

 残念ながら、それが、現時点の定め。

 なら。

 グダグダ言わずに、やるか!!

 澱んでいた様々な感情が、浄化され出した。

 何を言われても、感情を抑える努力をしなくて良くなった。

 笑って受け答えできる。

 すると、母も少し変化してきた。

 これまでは、物がなくなっても泥棒の仕業にするだけだったのに。

 あら、お母さんボケちゃったのね。

 自分が失くしたのを認めるようになった。

 これは大きな変化である。

 もちろん、失くしたものを全部見つけ出す私の成果もある。

 これは、宝探しゲームだと思えばいいのだ。

 なんなら、見つけたら〇〇円と課金でもすれば、もっと面白いかも。

 と。

 何しろ、本人は、至って真面目なのだ。

 誤魔化そうと思って、物取られ妄想が起きているわけではない。

 心底、誰かの仕業と信じている。

 その心理を覆しても意味はないと、ようやく悟った。

 聞けば、他の入居者も同じらしい。

 ウチだけじゃ、なかったのね。

 その現実に、少し救われた。

 ってか。

 老いるって、そういうこと!?

 これは、生まれた年代なのか、生きてきた環境なのか。

 自分が、同じ年頃になった時、同じような事言うんだろうか!?

 おお、怖っ。

 ま、そうならない準備だけはしておこう。

 

 ケシテイカラズ

 ソウイウモノニ

 ワタシハナリタイ