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束の間

 おしゃべりけんちゃんの効果は、徐々に薄れてしまった。

 母の物取られ妄想は、再び始まってしまったのだ。

 物取られ妄想は、一定期間で落ち着く事もあるらしいが、どうして、どうして。

 母の妄想は、現在再燃している。

 それでも、母は明るく言うから、マシな方らしい。

 ネガティブに落ち込む人もいるという。

 さて、再発のきっかけだが。

 最近、杖では心許ないと、歩行器を使うようになった。

 新品を買ったらそこそこの値段だが、介護保険を使ったレンタルが出来るのだ。

 早速手配してもらった。

 だが、新しい何かが始まると、いつもの歯車がずっこけてくる。

 今回は、部屋の鍵を盗まれたと電話が来た。

 もちろん、誰も盗んだりしない。

 うっかりどこかに置いてしまったのだ。

 しかし、そんな話は通用しない。

 なくなる物は、泥棒の仕業以外考えられない思考なのだ。

 自分が無くすなんて、論外である。

 その一貫性は、揺るぎない。

 5分前にやったことを忘れてもだ。

 そこは、もう、どうしようもないのでこっちが切り替えるしかない。

 部屋設置の見守りカメラを再生した。

 8倍速で再生しながら、出入りをチェックして、鍵のありかを探した。

 数日間の行動から見つけ出すのは。なかなか困難である。

 何度も再生を繰り返し、何とか、無くした日時は特定出来た。

 今回も、何とかなるだろうと、母がいる施設へ向かった。

 だが、当たりをつけた場所に、鍵はなかった。

 その代わり、トイレがちょっと汚れていた。

 私が到着する30分ほど前に、トイレを詰まらせたらしい。

 トイレには、タオルが詰まっていたそうである。

 ま、無事回収できたので、大ごとにはならなかった。

 おそらく、粗相をしてしまい、それを掃除するためにタオルを使って、慌てて流したのだと思う。

 ただ、本人は、どうしてタオルが詰まったのか、全く覚えがないという。

 ボケ老人、あるあるでございます。

 その証拠隠滅のため、汚した物をまとめて捨てたようだった。

 おそらく鍵も、その中に紛れてしまい、ゴミ捨て場に行ってしまったのだろう。

 だとすると、いくら探しても見つからない。

 念の為、部屋中を捜索した。

 へそくりは見つけたが、鍵は出てこなかった。

 鍵は、マスターキーで合鍵を作ってもらうことで解決した。

 ただ、本人は、鍵が盗まれたから泥棒が入ると思い込んでいるので、あれこれ言ってくる。

 今日は、卵を持って行かれたと怒っていた。

 自分が食べているのにね。

 ま、これも認知症あるあるだわね。

 こっちが真剣に受け取っていたら、参ってしまう。

 自分をコントロールしながら、母と付き合うしかない。

 よなぁ。

 だが、やっぱり。

 クソババァ。

 と心で罵ってしまうわ。

 

 ああぁ、おしゃべりけんちゃん効果は、束の間だったな。

 がっくし。