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新居へ

 毎日のように土湯温泉へ通う日々も、ようやく終わりが見えてきた。

 母の移動日の前日、母をここで最後の温泉に入れた。

 たまたま一緒になった入居者さんに、いつ移るのかと聞かれ、明日だと告げた。

 部屋へ戻り、片付けを始めると、次々と訪問者。

 いや〜、情報伝達が早いねぇ。

 皆、涙を浮かべながら別れを惜しんでいる。

 「アンタいなくなったら、アタシ一人ぼっちになっちゃうヨォ」

 「アンタには、未来があるけど、ここにいるアタシには、なんにもないヨォ」

 隣室のオババ様が必死に訴えていた。

 私は我関せずで、せっせと荷物を段ボールに詰めた。

 オババたちの別れの儀式に、まともに付き合ってはいられない。

 大体の整理が終わったので、荷物をいじらないよう強く言って帰宅。

 ただねぇ。

 触るなって言うと、触りたくなるのよね。

 なーんか、いやーな予感して。

 見守りカメラを覗いてみると。

 ああああ、やってる!やってる!!

 あれ、腰痛かったんじゃないのかい?

 でさ、見守りカメラの音声をオンにしたら。

 「まったく、腰痛いって言うのに、何で片付けしなきゃならんの」

 お怒りモードで、物を出したり、入れたりしている。

 慌てて電話すると。

 「やれって言ったから、腰痛いのにやってるの!!」

 どう勘違いしたら、そうなるのか。

 「いじらないでって、言ったよ。そのままにして、もう、遅いから寝てください」 

 そう言って電話を切った。

 しかし、いつまで経っても、寝る気配がない。

 再び電話をすると。

 ようやく、理解したらしく・

 「わかった、寝る」

 もう、この時点で、どうなっても仕方ないと諦めた。

 翌朝、カメラを確認すると、ほとんど寝ていない様子だったが、とりあえずは、生きている。

 ってか、アタシが寝れなかったよ。

 さて出発。

 今日ばかりは、近くから高速に乗った。

 母の部屋に着くと、きちんと着替えて、入れ歯も装着。

 行く気満々である。

 昨夜は眠れたの?と聞くと。

 よく寝た。との返事。

 夜半過ぎの私とのやりとりは、全く覚えていなかった。

 まぁいい。

 無事出発さえできれば、それでいい。

 不用品回収業者が早めに来てくれたので、予定より早く出発出来た。

 あちこち経由地して、役所の届けも済ませ、時間通りに新しい施設に到着。

 もう、それだけで、あたしゃ、満足です。

 ここから先は、何が起きても、もう、動じない。

 恐ろしいほどの書類にサインをして、母をベットに寝かせ、その日の業務は終わった。

 この日から、母の新しい生活が始まる。

 その記念すべき日は、私の61歳の誕生日であった。

 ・・・母は、綺麗さっぱり、私を産んだ日をお忘れのようでした。

 ま、何年も前からだから、もう、全く何とも思わんけどね。

 さて、次は、荷物引越と退去前掃除だ。

 

 あ、誕生日の祝いは、自分のケーキと高級惣菜で楽しみました。

 料理する気力なんて、じぇんじぇんありましぇん。