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山桜

 駐車場の土手に一本の山桜の木がある。

 削られた斜面の途中に、しがみつく様に立っている。

 どれだけ根が張っているのか分からないが、大雨が来るたびヒヤヒヤしている。

 いつか崩れ落ちるのではないかと。

 もし、お客さんの車に倒れ込んだら・・・

 ああ、こわっ。

 可憐な花を咲かせてくれる山桜だけど。

 伐採を考えないとなぁ。

 勇者登場

 どうよ、この装備。

 カッケー

 実は、お客さんに、本物の木こりさんがいる。

 その方が、伐採を引き受けてくれた。

 駐車場の地主さんは、

 邪魔なのは、どれでも切っていいよ〜

 と、快諾してくれた。

 土曜の朝。

 チェーンソーのエンジン音が響き渡った。

 土手の中腹の木をどうやって切るのだろうと思っていたら。

 頑丈な木にローブを括り付けて、そのローブに捕まって、水平降下。

 うわー、消防隊みたい。

 片手でチェーンソーを操りながら、メインの木以外を切り落とした。

 その姿は、惚れ惚れするほど男前だ。

 この勇者は、毎日これをやっているのだと思うと。

 もう、すごいとしか言えん。

 あれよあれよと言う間に、山桜だけになってゆく。

 行くよー

 と言われた、次の瞬間。

 メキメキ、バキバキ。 

 ズズズー 

 あっという間に、切り倒されてしまった。

 えええぇ、動画。

 撮ってない。

 す、す、すごい。

 しばし、呆然としてしまった。

 思っていたよりも、ずっと大きかった山桜。

 駐車場の半分くらいまで、覆われてしまった。

 さて、ここからが私の出番。

 カットされた枝葉を隅の方へ片付けるのだ。

 自分も手鋸を使いながら、片っ端から切っては運び、切っては運ぶ。

 曇りなのが幸いだったが、身体中から汗が吹き出した。

 でも、いい汗かかせていただきやした。

 開始から2時間ほどで、ほぼ終了。

 薪用に切られた丸太は、しばらくの間駐車場で保管。

 一年で一番湿気のある季節。

 本来なら、木の伐採は休眠中の冬に行う。

 だが、止むに止まれぬ事情により、そうも言っておられず。

 今回の伐採となった。

 丸太の乾燥には時間がかかるが、ま、仕方ない。

 それより心配なのは、盗難である。

 実は、2ヶ月ほど前。

 丸太の盗難に遭っている。

 店の横に積んでおいた丸太が、キレイさっぱりなくなっていたのだ。

 一体誰が・・・

 と思うが、まぁ、この世の中。

 何が起きるか分からない。

 気休めだが、「碧い月の丸太」と注意書きを立てた。

 どうか、この丸太は、盗まれませんように。

 生木が薪に使える様になるには、2年ほど乾燥させる必要がある。

 どうか、どうか、それまで盗まれませんように。